オーシャンスイム160キロを64歳のダイアナ・ナイアドが完泳 ❶

天才学

オーシャンスイム、キューバ〜フロリダ横断160キロに挑んだのは64歳の女性ダイアナ・ナイアド
サメよけなしで足掛け35年、5回目の挑戦で前人未到のチャレンジに挑んだ秘密にせまります

 

究極の長距離スイマーは感覚を完全に奪われる

ウルトラ遠泳ほど感覚を完全に奪われる状態になるのは、様々なエンデュランススポーツの中でもまれだ

過激なアルパイン・クライマーに高度などの問題が試練を与え、また別の要因がウルトラ・ランナーやウルトラ・サイクリストや南極探検家を苦しめはするが、知覚を奪われた究極の長距離スイマーほど、自分の思考のみと向き合ったり、安全上の理由から警告を受けたり、環境と接触する能力を奪われる冒険はない

得体の知れない猛毒クラゲの襲撃

スタート2時間後に起きた毒クラゲの襲撃

「うわああああああああああ!うわああああ!あああああ!ビリビリくる!」
「体が焼ける、焼けてる!!助けてっボニー、助けて!!」

麻痺間隔があることをボニーに伝えようと、苦しい呼吸の合間にロレツが回らなくも言葉を発する

背中の中央と肺のあたりが固まり、腕が水中から上げることができない

脊髄の機能が奪われたようだ

救急救命士の巨漢のダイバーがダイアナを助けるために水中に入るが、同様な襲撃にあいボートに上がり手当を受けるも苦痛に身悶えしている

それでもダイアナは水から上がらずに前に進み続けた

死に至らしめる猛毒ハコクラゲの仕業ではないかと大学医療班から推測された

がしかし、なんと翌日にも同じ得体の知れない猛毒クラゲの襲撃にあう

「うわあ!……うわあ、うわあ、うわあ、うわあ!!」

 

8年間休まず腹筋1000回、懸垂50回

10歳から目ざまし時計にも頼らず早朝4時半に起きて、腹筋1000回、懸垂50回を1年365日、1日たりとも怠らずに8年間続けた

初めてプールに立った10歳の時からハイスクールを卒業するまでずっと、自室のドアの裏側に
『あきらめずにがんばれば、石炭もダイヤになれる』と書かれた大判のポスターを貼っていた

いつも何より重んじていたのは、たゆまぬ努力だった

夜明け前に自宅を出て始業前と始業後にプールで、またウエイトトレーニング室で家族の夕食後の時刻までいつも練習に明け暮れた

両親ですらこのストイック生活に誇らしさよりも恐怖を感じていた

 

言語に絶する悲劇にも揺るがない結束の強さ

ダイアナ・ナイアドが以前に出会った若い夫婦の身の上話を思い出す

10億分の1の確率で起こった1家族2人目の子宮内でへその緒が首に絡まり酸欠状態による脳障害で生まれてくる子供のこと

それはこの若い夫婦の1人目と3人目の子供に起きた出来事で、1人目は14歳で無くしている

「自分たちは失ったものではなく、持っているものに目を向けて、健康と喜びの日々に感謝している」

ダイアナが涙を浮かべていると、ご主人が「大丈夫だと」そう語った

この夫婦の言語に絶する悲劇にも揺るがない結束の強さ

ベストを尽くして生きる姿勢

広大な青い外海でこの夫婦のことを考える

この旅に後ろ向きのあきらめの気持ちを一瞬も入り込ませず、前に進んでいる

 

『小指の爪の幅の余力も日々残さない』明快な人生哲学

17歳の夏、望みは薄いがメキシコオリンピック代表選考レース、100メートル背泳ぎで選手生活の有終の美を飾るレースに望んだ

レース直前、集中しきれていないダイアナに友人のスザンヌが声をかけた

『8年間で鍛え上げたパワフルな肩で飛び出すの!』
『自分を100パーセント出し切るレースにして』
『そしてゴールタッチをしても、順位の表示板は見ないで』
目をとじて、両手を握りしめて言って!
『これ以上、100万分の1秒だって速くは泳げなかった』
何の偽りもなくそう言えたら、結果がどうなたって絶対に大丈夫、後悔はないはず

レースが終わりゴールし、目を閉じコブシを握って、感情を込めて声に出して言う
『これ以上、100万分の1秒だって速くは泳げなかった』

上位3名がオリンピック代表権を得るレース、結果は6位
オリンピック選手にはなれなかった

だがわたしが全力を傾けたのはこのレースだけではなく、腹筋運動の一回、プールの一往復にもベストを尽くした

『小指の爪の幅の余力も日々残さない』明快な人生哲学を17歳の夏に学んだ

後悔はなかった

 

 

 

 

 

[参考文献]
ダイアナ・ナイアド (訳)菅しおり「対岸へ。オーシャンスイム史上最大の挑戦」三賢社

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