安田登は能楽師にして、米国生まれのボディーワーク「ロルフィング」の日本で数少ない公認の
ロルファー
丹田呼吸や「身」理論などの東洋の身体技法をも意識したセッションにより、なめらかで機能的な動きを導き出し、スポーツ選手や俳優などの身体調整を手がけている
「和の所作」がいまの子を正す
昔の子供にくらべいまの子は、体格的には大きくなっているにも関わらず、体力面での低下はみなさんが周知しているところです
安田先生が能を教えに小学校を訪れ、いまの子供の体の動き、運動をしている姿を見ていると、どこか「ぎこちない動き」をしている子供が目につくといいます
その原因の1つに体の根幹部(中心部)の筋肉、深層筋が使えていないことがあげられます
これを活性化させるのに有効なのが昔は自然に受け継がれて出来ていた「和の所作」=「能の動き」なのです
柔よく剛を制す
日本の古武術では「柔よく剛を制す」の言葉どおり、力を抜くことが極意、秘訣としてきました
あの剣豪の宮本武蔵も力を抜くことの重要性を説いていました
ではどこに力を入れ、どこの力を抜くことが重要なのでしょうか
ここで大事になってくるのが「和の所作」で培われる、深層筋だけに力を入れる方法なのです
よって表層筋はリラックスされた状態で力みなくいられるのです
大腰筋の活性化
私たちの上半身と下半身にまたがっている唯一の筋肉である大腰筋を活性化させることが大事になります
大腰筋は体の最も深い部位になるので意識しずらく、トレーニングして鍛えることが難しい深層筋になります
大腰筋は人体の基本をなす4つの働きがあります
①太ももをあげる ②上体を起こす ③背骨を支える ④骨盤のバランスを整える
この大腰筋はトップアスリートは皆が使っていると言われているのですが、バルセロナ五輪の陸上400メートルファイナリストの高野進選手は、筑波大学でMRI検査したところ、他の筋肉量は違いがなかったものの、大腰筋は学生の2倍以上あったのでした
呼吸と深層筋
呼吸は肺によって行われているのですが、肺自体の収縮はその周りの呼吸筋(深層筋)が行なっています
「息がつまる」とは文字どおり現代人がストレスが溜まり、筋肉が緊張し深い呼吸ができない状態になります
呼吸が浅くなると酸素を取り入れる量が少なくなり、脳を始め全身に酸素が行き渡らなくなると、活発な体の働き自体ができなくなります
「息が長い」という言葉は現役を長い間続けられる人のことを指す言葉ですが、スポーツ界で現役を長く続けられているアスリート、能楽師で80歳、90歳でも現役で活躍されている方は、深くゆったりとした呼吸をしていることは想像に難くないです
また深くてゆったりとした呼吸は自律神経のうちの副交感神経を活性化し、その働きによって筋肉(表層筋)の緊張がゆるみ、深層筋が活性化しやすくなるのです
ただ呼吸法の稽古は重要ですが、呼吸法に囚われていては自然な動きを生み出すことはできません
学んだ後に捨て去ることはとても大切なことです
すべての基本は姿勢から
能の大成者といわれる世阿弥の父、観阿弥の「風姿花伝」に
「一切は、陰陽の和するところの境を成就とは知るべし」という言葉があります
観阿弥は、陰陽の和合の境界こそがすべての成就の元だといっています
私たちの体の「背」は陽で、「腹」が陰になり、背と腹のバランスがとれているのが理想となります
「あの人は一本、芯が通っている」という言葉はこのバランスがとれた姿勢のことを指します
能においては、すべての動きは単純ながらも最も奥が深い和の身体技法「立つ」からは始まるが、スポーツにおける基本の動きと言い換えることができる
[参考文献]
安田登「脳に学ぶ身体技法」ベースボール・マガジン社
安田登「日本人の身体能力を高める『和の所作』」マキノ出版
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